コッツウォルズの田舎からロンドンまで出てきたのは、あの何もない村にを尽かしたからだ。
親父は俺に羊を任せたかった様だが、俺は羊も広いだけの丘も大嫌いだった。
そして何より、羊の尻を追いながら親父に様にただ老いて行くなど、まっぴらごめんだと思った。
とにかく俺は、あの村の全てにうんざりとしていたのだ。
別にロンドンに何かあてがあった訳じゃない。
ただ身体だけは人一倍丈夫だった事もあって、何とかなるだろうなどと漠然と思っていた。
ともあれ、何か仕事を見付けない事には、またあの田舎で羊を追う事になる。
たまたま入った街のバーでそんな事を考えていた時だった。
「なあ…若いの、酒くれねえか?」
ひどく汚れた男だった。
もう老齢になろうという歳だというのに、乱れた髪に伸びるに任せた髭面。
事故によるものだろうか、左足は膝から下が無く松葉杖を突いている。
「へへ…酒だよ、酒、一杯くらいいいだろ、な?」
マスターに目を向けると、露骨に迷惑そうな様相をしていた。
成程、手持ちも無しに酒をねだって回る男か、生憎こちらも余裕のある身ではない、早々のお引取りを願おうと思ったが再度男の姿を見てふと思い留まった。
大した理由ではなかった、ただこの男が薄汚れた身なりにも係わらず、その体躯が逞しく目の奥に何かぎらぎらとした物を感じたからだ。
少なくとも俺の居た田舎では、見た事のない種類の人間だった。
「マスター、一杯やってくれ」
金を渡すとマスターは憮然としながらも、ボトルに手を伸ばす。
「へへ…ありがとよ、お?おい、それじゃねぇよ、隣の…そう、そいつだ」
「若いの、あんたもやってくれ、もっとも俺の金じゃねぇがな」
何とも遠慮を知らない男だが、折角なので俺も同じ酒を用意してもらった。
「それじゃあ若いの、この一杯の幸運に乾杯だ」
俺は苦笑いで男とグラスを合わせると、琥珀色の液体を口にした。
「!!ッ………こ、これは……」
「へへへ…いい香りだろう?」
これは香りなんて物じゃない、鼻を刺す強烈なピート臭に、喉を下した後に残る燻される様な煙感。
なんて酒だ、上品な見た目と違って、ひどく荒々しい後味じゃないか。
俺がしばしの間、燻される様な酔いに巻かれていると。
「やっぱ最高だぜこの味は、何もかもが焼けちまうあの戦の香りだ」
そんな事を呟いて、男は遠い目をして琥珀色を覗き込んでいた。
「爺さん、あんた軍人だったのか?」
「ああ、若い頃はインドでな、土人の反乱軍を殺り合ったものさ…へへ」
「知ってる…確か、インド大反乱…」
「ああそうだ、当時出来たばかりの新型銃を手にして、仕留めた土人の数を競ってな…」
「………………」
「なんだ若いの、戦が好きか?」
俺の目を男の老いた瞳が覗き込む。
「いや…そんな事は……」
「へへ…嘘はいけねぇよ若いの、あんたさっきから、まるでガキみてぇな目ぇしてるぜ」
男は、さも楽しそうに笑っている、一方俺はと言うと腹が立つと言うより、何やら気恥ずかしい感じがしていた。
だから、男の言ったとおり、子供みたいにこんな事を聞いていた。
「教えてくれよ爺さん、戦争の事をさ」
「いいぜ、教えてやるよ、俺の見てきた戦をよ」
あの頃、インドじゃ東インド会社が幅を利かせてたがよ、メーラトでシパーヒー共が反乱を起こして、激しい戦闘が続いていた。
俺達イギリスインド軍は、新型銃や大砲で反乱軍を蹴散らしてやったが、それでも奴らの抵抗はそりゃあ凄まじかった。
中でもラクシュミーの率いる軍に、立て篭もったいたイギリス兵が捕虜まで皆殺しにされたって話が流れてからはよ、お互い報復の応酬ってやつが続いてな。
こっちはこっちで、捕虜にした土人を大砲に括りつけては、そのまま吹き飛ばしてよ。
爆音と一緒に土人どもがバラバラに吹き飛ぶ様は、そりゃあ痛快だったぜ。
そういや、ラクシュミーってのは若い女の上に、土人にしては中々にいい女だって話でな。
皆が自分こそがラクシュミーを仕留めてやるって、息巻いてたもんだ。
俺もラクシュミーを大砲で吹き飛ばす様を想像してはな、童貞の小僧みたいに興奮して眠れない夜もあったりしたもんだ。
ラクシュミーの軍ってのは、女子供まで混じった民兵が多くてな。
あれはカールビーの城を落とした時だったな、城の中には逃げ遅れた民兵共が逃げ惑っていた。
中にはしつこく抵抗する連中も居たが、奴らの旧式銃など俺達の銃からしたら玩具みたいな物だ。
戦列を組んでの一斉射撃で、民兵の連中がばたばたと倒れてな。
すかさず俺達はそのまま突撃して、残った連中に銃剣を突き立てた。
民兵の中には若い女も少なからずでな、戦に高揚していた俺達は手当たり次第に犯したり殺したりしたもんだ。
褐色の肌ってのも悪くないものだったぜ。
腰は細いくせに胸は熟れた果実みたいでよ、おまけに張りがあっていい身体をしていやがる。
ちぃとばかり年増の女でも、柔い肉穴に突っ込んでみりゃあ最高だったぜ。
まして若い娘となりゃ尚更だ、泣き喚く娘を数人がかりで押さえ付けながら細い腰に突き入れてな。
弾むみたいな若い乳房を掴んだまま、何度も中に出してやったぜ。
中には、もう生きてるかどうかも分からん女を犯してる連中もいてな。
まぁ、どうせ生かしておく気も無かったんで、同じ事だったがね。
中でも覚えているのは、ひどく暴れてくれた小娘だったな。
まだガキみてぇに華奢な小娘だったが、引っ掻くわ噛み付くわでえらい手が掛かってな。
その場で殺しちまっても良かったんだが、ちと面白い事を考えてよ。
あの頃、インドには大量の阿片が溢れててな、俺達は小娘の華奢な身体を押さえると、阿片を詰めたパイプを小さな口に捻じ込んで、たっぷりと吸わせてやったのよ。
そうしたら小娘は嘘みたいにぐったりとしたまま、ぼんやりしたままぶつぶつとうわ言を呟いてよ、これが散々に暴れた小娘かと思うとひどく興奮したもんだぜ。
小娘小娘と言ったがよ、ひん剥いて見りゃ胸なんか片手に収まっちまう様なガキだった。
だがこの小さい胸が、熟れた女とは違って張りのある手触りで何ともたまらない。
下の方はと言うと、これも毛と言える程のものも無い綺麗な筋でよ。
脚を広げて見ても阿片で呆けたガキは抵抗もしなかった、蛙を仰向けにした格好だってのに股の筋が閉じたままだってのは、本当にガキだったのかも知れねえな。
その格好が、何だか「犯してくれ」って言ってるみてぇでよ、綺麗な割れ目を押し開いて奥までぶち込んでやった。
ガキを犯した事なんかねぇだろ?
ガキの穴はえらく狭くて固いけどよ、そこを力付くに押し開いて犯すのはたまらない物があったぜ。
大量の阿片でいかれちまってるって言っても死んでる訳じゃねえ、ぎちぎちの穴を奥まで突っ込んで胎突き上げてやりゃあ、小さな身体震わせて「あ」だの「う」だのと声を漏らしてた。
それに、呆けたガキはこっちの成すがままだ、何度も突き入れてやりゃ小さな胸が弾んでるのも最高でな、孕む様な歳だったかは知らねぇが、奥まで突き入れてたっぷりと子種をくれてやったぜ。
そうしたらよ、ガキのくせして娼婦みてえに胎の奥をひくつかせて、子種を吸い上げてやがった。
ガキと言えども女って事か、それともたっぷり吸わせた阿片のせいか、とにかくガキの狭い穴で娼婦みてえなひくつきだ、俺達は入れ替わりに何度のそのガキを犯してやった。
噛まれる心配も無いとくれば半開きの口にもぶち込んでよ、ガキってのは口の方も小さいもんだから、喉の奥まで突っ込んじゃあ子種を喰らわせてな。
胎の方にも何度も出したものだからよ、開きっぱなしの股ぐらから入りきらない子種が溢れかえってたぜ。
ええと、最後の方には、ありゃあもう死んでたな、細っこい手も脚もぶらぶらさせてよ、犯す度に呆けた顔のままの頭がかくかく揺れててよ。
もう孕む事も無かったろうけどよ、それでもガキの胎に子種を吐き出すの最高だったぜ。
「それからも、戦は続いたな」
「そりゃあ大勢殺したし、大勢殺された」
「ま、おかげで俺もこの様だしな」
へへへと笑って、男は膝から下の無い足をぽんぽんと叩く。
「後悔は?」
あっけらかんと語る男に、ついそんな事を聞いてみる。
「まぁ…ねぇな、へへ…何だかんだで、好きにやったからな」
「心残りと言えば、ラクシュミーの最後を見れなかった事かね、何でもグワーリオルで戦死したって話だが、ぜひお目に掛かりたかったもんだぜ」
そう言って男は、グラスを傾け。
「ん?…ああ、もう空か…へへ…ありがとよ若いの、久しぶりにうまい酒だったぜ」
「杯を満たして~軍帽被り薬嚢背負い~交紐の衣着たる者らの~長命を祝ひて乾杯せん~♪」
男はあっさりと席を立つと、振り返りもせずにバーを出て行ってしまった。
残された俺は、今まで考えても見なかった戦場の話を反芻して、グラスに残った琥珀色を流し込む。
相変わらず鼻を突く程のピート臭と、咥内を燻す様な煙の味を感じながら、酒のボトルに目を向けた。
「…ラフロイグ……戦の匂う酒か…」
明日は、連隊を尋ねてみるとしよう。
未だ煙の香りに酔ったまま、俺はそんな事を考えていた。