陽が傾く頃、メアリーは今日も街角に立つ。
まだ子供の様な外見だが、彼女は売春婦だ。
と言っても、このイーストエンドでは彼女の様な幼い売春婦の存在は、特に珍しい事ではない。
勿論好きでやっている事ではないが、掃き溜めの様な街で幼い少女が生きていくのは、並大抵の事ではない。
彼女は、10歳のとき父親にレイプされた。
父親はこのイーストエンドと同じく最低の人間だった、母親を街角に立たせては、その金をジンと阿片につぎ込んでいた。
そして、母親が家を出て行った日の夜、メアリーは突然寝ている所を襲われた。
抵抗したが、10歳の少女の力では大人の男に叶うはずも無く、ねじ伏せられ寝間着を剥ぎ取られて、父親のモノで幼すぎる処女を散らされた。
やめてやめてと泣く少女に、父親は容赦なく腰を叩きつけ、未成熟な胎内に何度も精を放った。
その日の明け方に、痛みと痺れで感覚の無い下半身を引き摺る様に家を出て以来、彼女は帰っていない。
その後の1年間、彼女は少年の様な格好で、浮浪児たちと暮らしてきた。
盗みや引ったくりを繰り返して食い扶持を稼いだ。
この街には逮捕してくれるヤードなど居ない。
逃げる途中で捕まった、ジムは袋叩きにあって殺された。
まだ6歳だったチャーリーは、煙突掃除仕事中に滑り落ちて死んだ。
ジョン、キッチ、マークは、狭い炭鉱の中から帰っては来ない。
唯一炭鉱から帰ってきたベスは、3ヵ月後に肺を病んで死んだ。
そして1年後、1人になったメアリーは、街角に立つ事を選んだ。
男に抱かれるなど、二度と御免だったが、他に食べていく手段も無く、何より彼女は何としてもこの最低の街から出て行きたかった。
幸いにもメアリーは客に困ることは無かった、少女の服に着替えたメアリーは、中々の美少女であったし、この界隈には幼い少女を買いにやってくる金払いのいい変態紳士もよく見られた。
まだ性を感じる年ではなかったが、元々器用だった彼女は、他の娼婦から男を悦ばせる演技を見につけ、この1年で得意客も掴んでいた。
しかし、安定した収入があるわけでもない。
実際、今日に限っては、一向に客が取れない。
「ねえ、旦那よってかないかい。」
無邪気な声と愛らしい笑顔で、スカートを手繰り細い脚を晒す。
少女らしい肉付きの薄い脚は、その手の趣味の男にはたまらなかったが、この男は違った様だ、近くに立っていた豊満な女性を相手に交渉を始める。
結局、客が取れないまま時間が過ぎて、路を照らすガス灯の数も少なくなった。
人通りの数も減り、これからはこのイーストエンドにとって危険な時間となる。
諦めて引き上げようと思ったメアリーは、暗がりの中をふらふらと歩いてくる男に気がついた。
酒に酔っているのだろうか、酔っ払いの客は調子に乗って女を乱暴に扱う事が多い、無視するべきかとも思ったが、近くに寄って男の服に気が付いた
多少汚れてはいるものの、男の着ている服はベルベットのジャケット、決してこの街の男が着ている物ではない。
汚れているのは、酒場の喧嘩にでも巻き込まれたか。
なんにせよ、男の着ている服だけでも充分に価値がある。
「ねえ、旦那よってかないかい、今日は最後なんだ、朝までイイ思いさせたげるよ」
もちろん、その分の料金は貰うけどね、と頭の中で付け加えて男を誘う。
ガス灯に男の姿が照らされる、無精髭が目立つが、まだ若いなかなかいい男だ。
どうせなら、太った中年男よりこういう男がいい。
「あ…ああ。」
男は、メアリーの差し出した手を掴むと、うなずいて見せる。
「ありがとね、あたしはメアリー、旦那はッ…!」
メアリーが名乗った瞬間、男は突然メアリーを抱きしめた。
「ああ…マリー…」
「ちょっ、旦那、あたしはメアリーだってば……あ…」
男の目を見た瞬間、メアリーの身体か緊張し硬直する、見覚えのある目だった、阿片で濁った目、あの殺してやりたほど最低な父親と同じ目をしていた。
「だ…旦那、ちょっと苦しいって、離しておくれよ。」
メアリーが硬い笑顔で、男の抱擁を解く。
どうしよう…メアリーは考える、過去の経験上、阿片中毒の男は避けてきた、今回もそうするべきだろうか。
でもこの男の身なりは、どう見てもジェントリだ、現金の持ち合わせが無かったとしても、身に付けている物だけで、結構な額になる。
そして何よりこの街を出て生活するには金がいるのだ。
「ね、ねえ旦那、買ってくれるのはいいけど、金はあるのかい。」
「…ああ…金…」
反応が鈍い、やはりかなりの中毒だろう。
「か…金なら…あるんだ…」
そう言いながら、男が懐から取り出したのは見事な細工の金時計だった。
「す…すごい。」
娼婦の演戯でなく、年頃の少女らしい目できらきらとした金時計に見入る。
本物の金時計だ、いったいどれだけの価値があるのか、10ポンド?それとも20ポンド?
1日を数シリングで暮らすメアリーにとっては、想像も出来ない品だ、何れにしてもこれがあれば、こんな街から出て行ける。
「いいよ旦那、何だってしてあげるさ、好きにしなよ。」
メアリーは男を連れだって、連れ込み宿に向おうとしたが、男はその手を握ると、薄暗い路地裏に連れ込んだ。
「あん、旦那、どうしたってのさ。」
男は、煉瓦の壁にメアリーを押し付けると、路地裏に射す僅かな明かりを頼りに、少女の身体をまさぐる。
「なんだい、旦那そういう趣味かい?いいよ何処でも。」
幼い少女には似つかわしくない妖しい微笑を浮かべて、メアリーがその細い身体をくねらせる。
甘い声を上げながら上着の釦を外し、年齢の割に未発達の身体を露にする。
男の愛撫は以外にも優しく丁寧であったが、メアリーは性の快楽を感じはしない、父親に犯されて以来、何人の男に抱かれても彼女は悦びを知る事はなかった。
だが、客の悦ばせ方は知っている、妖艶な仕種で甘い吐息を吐き男を導けば、薄暗闇の中に桜色を戴いた薄い胸と肋骨の影が浮かぶ。
「ねえ、いいよ、抱いてちょうだい。」
スカートを手繰り下着を脱ぐと、男の耳元で囁く。
男は、幼い少女に誘われるまま、自身を当てがい突き入れた。
「あは、すごぉい」
メアリーは未熟な秘裂で男を受け入れると、腰をくねらせ偽りの艶戯を続ける。
「ああ…ああ…マリー…マリー…」
男は、少女の幼い身体を求めて、夢中で腰を動かす。
「ん…あん、また…マリー…って、旦那の…いい人かい、あは…ひどい…人だね…旦那…ん…」
男の動きに合わせて、少女の小さな身体が弾み、二人の視線が交差する。
メアリーが違和感に気づいた、ついさっきまでの濁った瞳から生気が溢れ、メアリーの瞳を覗いている。
それはまるで、メアリーの全てを見透かす様で、僅かな不快感を擡げた。
「ああ…マリーだ、まってたよ、マリー。」
メアリーを抱きながら、更に少女の瞳を覗く、メアリーはその瞳に晒される度に、自分を覆う殻が剥されていく様な怖さを感じていた。
「ちょっと旦那、あたしはメアリーだってば。」
メアリーの言葉から演戯が消えていた。
少女の本能が感じる、この男はやばい。
だがそれは遅かった、男の手の中から抜け出そうとした少女の首に男の手が掛かる。
細い首に触れる冷たい感覚に、悪寒が走り身体が硬直する。
「ね、ねえ、悪い冗談はやめとくれよ、そういう遊びならほかで…」
「あは、マリーだ、僕のマリーだ。」
男は、マリーを抱きながら、その手に力を込めていく。
「や…め……違……あた…し……マリー…じゃ…・・」
男は興奮した様に、益々激しく腰を動かす。
メアリーは男の手から逃れようともがくが、思いのほかその手は力強く、メアリーの首を締め上げる。
「あはは、マリー、一緒だよ、僕たちはまた一緒なんだ、あははは。」
意識が遠のく中、メアリーは精一杯の抵抗を続けていた、いやだ、いやだ、こんな所で死にたくない、あたしはこんな街で死にたくない、死にたくないよ、この街を出てあたしは……
何かを訴える様に口がぱくぱくと開くと、少女の身体がびくんびくんと痙攣した。
それに合わせる様に、男は腰を震わせ少女の子宮に精を放つ。
しばらく少女と繋がったまま性を吐き出していた男が、ようやくその小さな身体を解放する。
既に少女に息は無く、細い手足を投げ出したまま、ぐったりと横たわる。
「は…は…あは…あははは、マリーはやっぱり綺麗だ、素適だよマリー、あははは…」
男は、少女の動かない胸の先端に口付けると、唇で浮いた肋骨をなぞる。
徐々に冷たくなっていく少女の全身に口付けをして、内腿から脚の付け根に唇を滑らせると、小さな秘裂からこぽりと精液がこぼれた。
「ああマリー、もうたまらないよ。」
さっきより一層激しく起立する自身を、少女に突き入れる。
「あは、いいよマリー、素適だ、愛してるよマリー、あはは。」
いとおしげに少女を抱きしめ、腰を動かす。
力無く垂れた頭や細い手足が、ゆらゆらと揺れる。
小さな唇に口付け、だらりとした舌を吸い上げながら、冷たい子宮に熱い精を放つ。
「あは…あははは、最高だよマリー、最高だ。」
幼い秘裂から溢れる精もそのままに、再び少女を抱く。
小さな唇から喉奥まで精を受け、薄い胸に白濁を受け、灯も消えた裏路地の闇の中で、狂宴は続いた。
翌朝、テムズの霧が立ち込める中、少女は違法業者の摘発に来ていたヤードに発見された。
「こりゃあ、ひでえな。」
「ああ、今回で4件目だぞ、まだ子供だってのに。」
全身を白濁で汚された少女の死体に、ヤードの2人が眉を潜める。
イーストエンドでの事件とはいえ、連続で続く殺人にヤードも捜査を開始した。
少女の遺体が布に包まれて搬送される、ロンドンに運ばれ検死を受けるのだろう。
「おい!入っちゃいかん、ここは立入り禁止だ。」
現場の通りを歩く男に、ヤードの一人が声を掛けた。
「まったく、あんた夕べは何処へ?ここいらで何か見なかったか?」
「あ……ああ?」
生気の無い濁った目、言葉も虚ろで覇気が無い。
「ち、阿片クズか、もういい!さっさと消えろ!」
「あ…あ…ああ…」
「おい、どうした。」
もう一人のヤードがやって来る。
「ああ、只の中毒者だ、ここらは阿片窟が多いからな、ゴミが増える一方だ…うん、どうした?」
「いや……今の男なんだが、何処かで見た様な気がしてな。」
「さあな、以前に逮捕でもしたんじゃないか?」
「そうだったかな、しかし確かに……おい、お前…」
二人のヤード振り返ると、男は既に50ヤード程も離れた所にいた。
そして、相変わらずふらふらと歩いて、溶けるようにテムズの霧の中へと消えていった。